2012年4月8日日曜日

秘境集落で暮らす聖人達


 「東海道中膝栗毛」の作者として有名な十返舎一九の依頼で、越後の作家、鈴木牧之は「秋山記行」を書き上げる。天保2年(1831)のことである。「秋山とは、新潟県津南町を出発点とし、中津川沿いに長野県栄村まで峡谷を遡るルート」である。
 鈴木牧之は外部と隔絶した秘境集落の暮しぶりを赤裸々に描写する。そこには山間の動植物と同化して暮らす人々の生活がある。自然が厳しい時は餓死の危険があるが、暮らす人々の心は聖人のようであったという。
 鈴木牧之は「秋山記行」を以下のように総括している。
○里人は 
 ・家にあっては心配ごとが多く、外では色浴をほしいままにする。
 ・山海の魚鳥の肉を喰らい、病気や悲しみに心を迷わせる。
 ・夏の虫が火に飛び込み、魚が毒餌に食い付くように煩悩の波が高い。
 ・暇があると名利名聞の為に物事をやろうとする。
○秋山は
 ・神代の時代そのままの生活であり、長寿である。
 ・天の恵みを自然に守り継ぎ、栃の実、楢の実、粟、稗を食べ、色欲も飲酒もない。仙人の道である。
 ・手足の動くうちは山の畑に出て、雨露風霜も苦にせず、鳥や獣のように自然の中を駆け回る。
 ・真っ正直で、夜も戸には錠もなく、聖人たちの集落のようだ。
(「秋山記行」現代語訳・磯部定治。発行/株式会社・恒文社)

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