毎年、桜の咲くこの時期、上野・東京文化会館を舞台に「東京・春・音楽祭」が開催される。
目玉はなんといっても、「東京春祭ワグナーシリーズ」である。クラシック音楽を代表する作曲家はバッハ、モーツアルト、ベートーヴェンというのが定説であるが、ワーグナーの音楽にはこれらの作曲家にない魔力を感じる。
今回の出しもは《ニュルンベルグのマイスタージンガ―》。ワーグナーが20年かけて1867年完成。1868年ハンス・フォン・ビューローの指揮によって初演された。作曲中、ワーグナーはビューローの妻コジマと不倫関係にあったというから驚く。
ワーグナーの作品のほとんどは神話や伝説によるものだが、マイスタージンガ―は実在した靴職人ザックスを主人公にしたドラマである。ザックスは終幕で「神聖ローマ帝国は煙と消えようとも、聖なるドイツ芸術は我らの手に残るだろう」と高らかに歌う。そのドイツの中心がニュルンベルグなのである。
ワーグナーはこの楽劇でニュルンベルグを政治に代わって芸術が支配するユートピアの地として謳い上げるが、20世紀、ナチスはニュルンベルグを、国粋主義、国家社会主義のメッカと位置づけ、この楽劇を国威高揚に利用。第2次世界対戦でニュルンベルグは連合軍に爆撃され焦土と化す。
6日は演奏会形式の上演で、主役陣は外来の名歌手達、オーケストラは日本が誇るNHk交響楽団。指揮は1939年、ワルシャワ生まれのマレク・ヤノフスキ―(右上)。5時間30分(休憩2回)立ったままの指揮で聖なるドイツ芸術を謳い上げた。コロナ明けの会場には「ブラボー」の声が飛びかった。
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