2023年4月10日月曜日

ナチスのメッカとして利用されたニュルンベルグを舞台にした楽劇


 毎年、桜の咲くこの時期、上野・東京文化会館を舞台に「東京・春・音楽祭」が開催される。

目玉はなんといっても、「東京春祭ワグナーシリーズ」である。クラシック音楽を代表する作曲家はバッハ、モーツアルト、ベートーヴェンというのが定説であるが、ワーグナーの音楽にはこれらの作曲家にない魔力を感じる。

今回の出しもは《ニュルンベルグのマイスタージンガ―》。ワーグナーが20年かけて1867年完成。1868年ハンス・フォン・ビューローの指揮によって初演された。作曲中、ワーグナーはビューローの妻コジマと不倫関係にあったというから驚く。

ワーグナーの作品のほとんどは神話や伝説によるものだが、マイスタージンガ―は実在した靴職人ザックスを主人公にしたドラマである。ザックスは終幕で「神聖ローマ帝国は煙と消えようとも、聖なるドイツ芸術は我らの手に残るだろう」と高らかに歌う。そのドイツの中心がニュルンベルグなのである。

 ワーグナーはこの楽劇でニュルンベルグを政治に代わって芸術が支配するユートピアの地として謳い上げるが、20世紀、ナチスはニュルンベルグを、国粋主義、国家社会主義のメッカと位置づけ、この楽劇を国威高揚に利用。第2次世界対戦でニュルンベルグは連合軍に爆撃され焦土と化す。

6日は演奏会形式の上演で、主役陣は外来の名歌手達、オーケストラは日本が誇るNHk交響楽団。指揮は1939年、ワルシャワ生まれのマレク・ヤノフスキ―(右上)。5時間30分(休憩2回)立ったままの指揮で聖なるドイツ芸術を謳い上げた。コロナ明けの会場には「ブラボー」の声が飛びかった。





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