2022年5月22日日曜日

白金台のセレブと工学博士(上)フェライトをIEEEのマイルストーンに!

 

訪問の挨拶もそこそこに岡本さんはTDKとフェライトについて熱っぽく語りはじめた。

 1935年、起業家である斎藤憲三は東京工業大学の加藤与五郎教授を訪れる。斎藤は農業県・秋田の出身。これからは「農工一体でなければ農業県は豊になれない」が持論。斎藤は加藤に何かビジネスの種になるものはないかと尋ねる。加藤は武井 武と共同開開発したフェライトを紹介する。「フェライトには”森羅万象”が入っており、無限の可能性がある」と加藤は語る。同年、斎藤はフェライトの事業化を目指して東京電気化学工業(TDK)を設立する。事業として確たるもはなかった。斎藤の熱意と蛮勇による創業だった。そのTDK、現在年間売上2兆円の電子部品メーカーに大躍進。
 フェライト(磁性材料)を実際に開発したのは武井 武教授。加藤は武井の上司だった。岡本さんは武井の教え子というか一番弟子である。武井の指導で博士号を取得。TDKに入社したのも武井の推薦だった。
 フェライトの特許は加藤、武井が1930年出願。オランダのフィリップスもTDKのサンプル等を参考に開発し1941年に特許出願する。これに対し、1954年TDK無効審判請求。不利とみたフィリップス1956年和解申し入れ。TDK無効審判撤回し和解。(TDKに有利な条項も入っていた)
 和解の話を聞き、武井は憤慨する。武井は自身の功績が否定されたと感じた。1992年武井死去。武井の貸金庫を開けると、フィリップスとの特許係争の書類が入っていた。
 岡本さんは武井の無念を晴らすため証拠集めに奔走する。TDKはフェライトを1937年から作っていたこと、第2次大戦中には、軍の無線機に大量に使用されていたこと。等。2008年、東京工業大学伊賀健一学長、TDK上釜宏社長の了解を得て、IEEEマイルストーンに立候補。2009年、フェライトを発明した東京工業大学と事業化したTDKはIEEEマイルストーンを授与される。岡本さんは恩師・武井の無念を晴らしたのである。
 IEEEは電気・電子の分野で世界最大の団体。会員数37万名。
*写真は2000年、武井 武生誕100年を記念して出版された本。本の出版についても岡本さんは数々のエピソードを語った。
 


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