2022年5月26日木曜日

白金台のセレブと工学博士(下)金、銀、銅の音較べ


 岡本さん、時計を見る「あ、こんな時間ですね。食事の準備をします」話に熱が入り、1時近くになっていた。岡本さんは台所で食事を作りはじめた。「料理はストレスの解消にもなり好きだ」という。

料理の手を休めることなく、岡本さんはオーディオメーカーについて思い出を語る。
CDはオランダのフリップスとソニーが開発した商品である。
DAコンバータ(デジタル信号をアナログ信号に変換)を通った後はフィルタとキャパシタ(コンデンサ)がついているだけである。われわれはCD用の厚膜ハイブリットICを作った。フィルタで音が変わるというので、導体に金、銀、銅の三種類を使ってみた。音にうるさいA社に聴いてもらうと、銅が良いという。「中音がどうの、高音がどうの」と音の違いを指摘する。「気のせいだろう」と思い、TDKにいるレコードメーカー出身の技術者に聴いてもらったらやはり同じことをいう。人間の耳は繊細だなと感じると共に、自称オーディオマニアアの看板を降ろすことにした。
 オーディオメーカーにはA社のように音にうるさいメーカーがある一方、音については一言もいわず、信頼性を重視するメーカーもある。また、部品の仕様を決めるにも係長が決めるメーカーもいれば、ハンコの数が10個もならぶメーカーもある。
 こんなこともあった。「米国のクリスマス商戦用だ!部品ができしだい宅急便で送ってくれ!」ところが「信頼性テストで40度に温度を上げたら音がでない!」と6万個返品。解析したらチップコンデンサがパラパラと落ちてきた。パラジウムが水素を吸蔵して機械的に落ちてしまったのである。ホットプレートを買ってきて返品された部品を120度に加熱し吸蔵を安定させてから出荷した。アメリカへかけつける覚悟をしていたがセーフだった」
 
 岡本さんはTDK R&Ⅾ CORPORATIONの社長も歴任した。TDK社長との会話が面白い。
「岡本さん、技術の中長期計画出してくれ」「その前に経営方針を出して欲しい」「なるほど、技術の方はそういう方針か。ところでこれでなんぼ儲かるんだ」「競合メーカーの動向もあるし、わかりません」「それじゃダメ。出し直し」

 岡本さんの手料理はステーキチャーハンと特製のサラダだった。独特のスパイスが効いたチャーハンは異国の味がした。食後にいただいたコーヒーはチャーハンとは対象的に”純”な味がした。

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