2017年9月13日水曜日

恩田 陸著「蜜蜂と遠雷」(直木賞、本屋大賞)

 
弟から「面白い本があるから読んでみたら」と薦められた。
 2017年度、直木賞と本屋大賞をダブル受賞した、恩田 陸著「蜜蜂と遠雷」である。
 ストーリーは日本の地方都市で開催された世界的なピアノの国際コンクールに出場するコンテスタントの話なのだが、音楽・オーディオファンであり、現役の頃、カセットテープの商品企画をやっていた私には聞き捨てならない話が続々登場する。
「才能は、当然のことながら富と権力のあるところに引き寄せられる。豊かなアメリカは巨大な音楽市場となった」。TDKも音楽用カセットをアメリカから市場導入して成功した。「CDがレコードならまだ再現できていた人間の耳に聴こえるか聴こえない高音域と低音域を切り捨て、それによって、演奏家のもっているある種の土着性をスッポリとそぎ落とした・・・」LPレコードで聴いた加藤登紀子の「知床旅情」が私の心に響いたのはそのせいかもしれない。
 極め付きは、楽器を演奏せず、カラオケも歌わない私が体験できない、演奏家の喜びである。「普段の生活がどこか遠いできごとのよう。ステージ上のあの感じ、光に照らされたグランドピアノの佇まい、そこに歩いていく感じ、心地よく集中できるあの場所、観客の視線を集めて弾きだす瞬間、親密な同時に崇高なものが凝縮された瞬間、そしてあの満足感。興奮に溢れた喝采、観客となにかを共有し、やりとげた感じ。ステージを去る時の感激と高揚感・・・」ここで、先月、聴いたプリマドンナ、中丸美千繪を思い出す。彼女は観客の割れるような拍手に片膝を折り曲げて答礼。その姿が美しかった。
 恩田 陸(おんだ りく)さん<本名:熊谷奈苗(くまがいななえ)>は1964年生まれ、私より22才若い。そのせいか文章は現代調で読みやすい。しかも、その表現力、洞察力に驚く。音楽に縁のない人でもピアノ演奏の奥深さが十分わかるように表現されている。恩田さんはこの作品を書き上げるのに7年費やしたという。
 わが町、牛久図書館でも「蜜蜂と遠雷」は大評判。現在、貸出待ちの市民210名である。
 

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